ベンゾール読書録

読んだ本の感想を残しておくためのブログです

『アステリズムに花束を』

今回は、百合SFアンソロジーの『アステリズムに花束を』です。

 

•「キミノスケープ」/宮澤伊織

二人称小説はこれまでにあまり読んだことが無いのでそこが結構印象に残りました。百合SFアンソロジーなのにいきなり登場人物がほぼ1人の話から始まるのは面食らいましたね。砂浜の足跡が出てくると『91Days*1』を思い出しがち。

 

•「四十九日恋文」/森田季節

発想で勝負している感が強いな、という印象を受けました。異なる世界の人間と(制限付きで)メッセージを送り合うという設定は『息吹』の「不安は自由のめまい」を思い出さなくもないですね。ありふれたモチーフではありますが。女性同士でそういうことを「する」こともあるのは知っているんですが*2、何をもって「した」ことになるのかいまいちよくわかっていません。特に知りたいとも思わないので放置していますが。

 

•「ピロウトーク」/今井哲也

たった9ページのマンガで起承転結のしっかりとした百合SFが描かれていて、作者の力量が感じられる良作でした。

 

•「幽世知能」/草野原々

自由エネルギー原理が出てきたり若干ハードSFっぽさがあったんですが、文系にもわかりやすく書かれていて良かったですね。これくらいのサイエンス要素が入ってるSFが一番好きです。実はまだ『最後にして最初のアイドル』を読めていない*3のでそのうち読みたいですね。

 

•「彼岸花」/伴名練

これぞ"エス"エフといった内容で良かったですね。「ホーリーアイアンメイデン」を読んだ際にも感じたのですが、伴名練は書簡体小説を書くのが抜群に上手いですね。手紙のやり取りで徐々に世界観を明らかにしていく感じが好みです。

 

•「月と怪物」/南木義隆

ソ連百合」としてバズったものをアンソロジーに収録したものだそう。そこまで粗があったという訳でも無いんですが、可もなく不可もなくという印象でした。百合に理由を求めるタイプの人間なので、セーラヤとエカチェリーナの間にそういう感情が芽生えたプロセスはもう少し描いて欲しかったですね。あとは最後の結末があまりに唐突だったというか、別にハッピーエンドで終わる必要は無いんですが、もう少し紙幅を割く余地は無かったのだろうか、という気はしましたね。敢えて唐突に終わらせているというのも十分考えられるんですが、取ってつけたような終わり方、という印象が拭えませんでした。

 

•「海の双翼」/櫻木みわ×麦原遼

これが読みたかったんだよ……となりました。クソデカ感情の結果ヤバい行動に走る女が好きなので。まあ硲は純粋な女性では無いんですが。ストーリー展開に意外性や真新しさがあるという訳では無いのですが、百合*4SFとしての完成度は高かったと思います。先の「月と怪物」との比較で言うと、「海」から葵への感情についての説明は少し薄めな気がしましたが、この物語のメインとなっているのは硲から葵への感情という風に受け取ったのでそこまで気になりませんでしたね。

 

•「色のない緑」/陸秋槎

百合受容体が未発達なのでこれって百合?という感じではありましたが、純粋に読み物として面白かったです。明確に言語化できるレベルまでは至らないもののどことなく『ハーモニー』に似た雰囲気を感じたのですが、軽く調べたところ早川書房の人も同じ指摘をしていたらしくあながち的外れでも無いのかな、となりました。

私の人生はまさしくあの、"Colorless green ideas sleep furiously"って文章みたい

というジュディの言葉はモニカのみならず読者にも刺さるパンチラインでしたね。

 

•「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」/小川一水

「いいですよ。ほんとのほんとに」

じゃあないんだよ。この話でアンソロジー締めるの天才か?最高の百合SFを見せつけられてしまいましたね。ツイスタとデコンパという設定が天才的。このプラットフォーム使えばいくらでも百合量産できるじゃん……。『天冥の標』には以前から興味があったし、本作を読んで一層期待は高まったんですが、いかんせん長すぎてなかなか手が伸びないんですよね。『アイカツ』シリーズと同じ。

 

◆総評

百合もSFも有識者とまでは言えないものの人並みには好きなので読むのを楽しみにしていたんですが期待通りの素敵なアンソロジーでした。特に好きだったのは「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」「色のない緑」「彼岸花」「海の双翼」辺りでしょうか。早川書房さんにはこれからも良いSFをどんどん発掘していってもらいたいですね。

★★★★☆

 

 

 

 

*1:見るとラザニアが食べたくなるハートフルアニメ。

*2:とおまどのSSで読んだので。シャニマスは偉大。

*3:図書館で3回ほど借りたものの、HDMIみたいなやつが災いし3回とも期限内に読めないまま返してしまった。

*4:百合の対象は女性同士に限定されないという立場からの捉え方ですが。